筆の洗い方について。正しく筆を洗うと筆が長持ちして、文字の上達も早くなります。

書き終わった筆をどう扱うかによって、次に書く時、書き味が大きく変わります。いつでも最高の線を書くために、どのように筆の手入れをすれば良いでしょう。正しい筆の洗い方と気をつけたい点をまとめました。

この記事の内容

・筆の洗い方
・筆の整え方
・筆の終い方
・筆は洗わなくても良い?

*筆は、大筆と小筆で扱い方が異なります。この記事は大筆の洗い方についてです。小筆の洗い方は下記リンクをご参照ください。


おすすめの大筆の洗い方は、水道水を流しながら、下の写真のように、毛の流れを保ちながら、指で筆が少し曲がるように押え、根元部分に水を当てて、墨を洗い流す方法です。そうすると、根元部分から墨がじわっと出てきます。それがある程度なくなるまで、繰り返します。

木村翼沙書道教室・筆の洗い方
大筆の洗い方

或は、下の写真のように、水道水を流しながら、指で筆を開いて墨を流すということもします。

木村翼沙書道教室・筆の洗い方
大筆の洗い方

いずれにしても、「筆についた墨を取りたい」ことが目的なので、その目的が達成できれば良いのです。

*この時に、絶対に注意してほしいのは、必ず「毛の流れを保つ」ことです。

*墨汁を使った場合、墨が完全に取れるということはありません。従って、上の方法で筆を洗っても、墨はなかなかなくなりません。だから、”ある程度”、墨がなくなったら、洗い完了です。ちなみに、墨色にこだわった作品を書きたいときは、墨汁を使った筆を使わない方が良いです。墨汁用の筆と、磨った墨用の筆を分けることをおすすめします。


続いて、筆の整え方について。筆を洗う時の仕上げは、下の写真のように、毛の流れに沿って、水を流し、毛の向きを整えます。ここで、洗った時に乱れた毛の流れをしっかり元に戻して、整えるイメージです。実は、この、洗った後に「筆を整える」ことの方が「筆を洗う」ことよりも、もっと丁寧にしていただきたいことです。

木村翼沙書道教室・筆の洗い方
筆の洗い方(整え方)

*毛の流れ(方向)が整っていることが重要です。

*筆を洗う時、墨を取るために、筆を開いたり押さえたりしている間に、平行にセットされていた毛が、中で絡まったり、結ばれたりして、その流れが狂ってしまいます。すると「筆がすぐ割れる」状態になりやすくなります。ですから、洗うときは、絶対に、毛の流れが乱れないように注意してください!

そして、仕上げ、これが最も重要です。下の写真のように、しっかり水分を取ってから、筆の形を整えることです。

木村翼沙書道教室・筆の洗い方
筆の洗い方(整え方)

*仕上げは、必ず、筆を円錐形に整えてください。

*筆を洗った後の水分を取るときは、要らなくなったタオルやキッチンペーパーなどで、筆の毛の流れに沿って、拭うと良いです。指先で水分をしごくだけでも問題ありません。


筆を整える時、円錐形の頂点は必ず中心にくるようにして下さい。この時、筆の円錐形が歪んだり、毛を整えずに乱れたままだと、乾いた時にその形のクセがついています。(人間の髪の毛同様、寝癖がついたようになります)そして、なかなか元の形に戻りません。次にコンディション良く使うために、必ず、きれいな円錐形に仕上げてください。乾かすときは、吊るすのがベストですが、寝かしても、筆立てで休ませても構いません。要するに、円錐形をキープすることが重要なのです。

翼沙書道教室:筆の保管方法
筆の洗い方(しまい方)

さて、どうしても筆を洗わなければならないか、といえば、実際はそうでもなく、洗わないケースもよく見かけます。例えば、よくある「筆を洗わないケース」は、

・「職業書家」さんのたくさん書かなきゃいけないから、いちいち洗っていられない。
・「ずぼら」さんの面倒だから、いちいち洗っていられない。
・「初心者」さんの「なんか筆が固まってる方が書きやすい気がする」という思い込み。
・「子供の頃のお習字では、筆を全部おろさなかったし、洗わなかった」という経験。


まず、プロであっても「筆を洗わない書家」、また、「筆を全部おろさない書家」もいます。よく、墨でガチガチに固められた筆(使ったあとそのままにした筆です。)を墨でほぐす、なんて光景を見ることがあります。よくあるのは、「職業書家」さんのたくさん書かなきゃいけないから、いちいち洗っていられないというケースです。(上記の方々はだいたい濃墨・かすれ表現が多いかと思われます。プロ故に、筆の扱いには慣れているので、書いているうちに筆の流れを整えることができています。つまり、私たち職業書家は、およそ常に書いているので、筆の状態が経験的に分かります。そこで、洗う・洗わない問題では、洗うが基本で、洗わない場合もある、とご理解いただければ幸いです…。)


続いて、「ずぼら」さんの面倒だから、いちいち洗っていられないケースについて。最もよくあるケースで、最もよろしくないケースです…。まず、「ずぼら」さんに言いたいのは、そもそも、”いちいち”筆で字を書いている時点で、あなたは「ずぼら」さんではありません…!どうして、デジタル全盛期のこの便利な世の中になってまで、「筆と墨」を使って、文字を書こうとしているあなたが、筆を洗うのは面倒くさいのでしょうか。後片付けも大切な要素。最後まで気を抜かないで取り組みたいものです。


さて、「初心者」さんの「なんか筆が固まってる方が書きやすい気がする」思い込みは、実は正解とも言えます。本当に、硬めの筆の方がコントロールしやすいのです。これまで硬筆の感触に慣れて来た人が、いきなり毛筆の弾力たっぷり感は違和感を感じ、扱いが難しいと感じるものなのです。でも、それはそういうものなんです。字がきれいになりたいから、「書道」を習ったのに、毛筆の扱いで手こずるなんて、予想外!というところでしょう。しかし、焦らないで下さいませ。文字は、毛筆による造形といえますから、毛筆の扱いに慣れた頃には、文字も美しくなります。そして、それは結構すぐです。さらに、それによって、文字の構造・本質を理解出来るから、どんな文字でも美しく書けるようになります。これが、筆で文字を学ぶ重要な理由の一つなのです。

ちなみに、当書道教室で最初に使うオススメ筆は、「硬め」のものです。ですから、硬めの筆を固めなくても、大丈夫!しっかり洗ってくださいませ。


そして、「子供の頃のお習字では、筆を全部おろさなかったし、洗わなかった」という経験についてですが、これは、諸々あって、一概には言えませんが、詰まる所、教育上の犠牲です。学校教育の場合、冷静に考えて、習字を十分に行う時間はありません。そもそも授業が少なく、習字(国語/書写)の時間は、他の教科と同じ授業時間(45分)が割り当てられている場合が多く、その中で、後片付けに、数十人の子供達が同時に少ない水場で、服や設備を汚さないように、筆をきれいに洗う、なんてちょっと無理があります。筆を全部おろした方がいいけれど、それで練習する時間はないし、洗う時間も十分にない、という訳で、現場では苦肉の策だと想像します。大切な習字の時間がなんだかもどかしいところですが…。


筆を洗う目的そのものは、「次にその筆を使う時に、良いコンディションで使いたい」からです。なぜ「良いコンディションで使いたい」かは、美しい文字、書きたい表現を書くためです。また、きちんと洗って、手入れした筆は長持ちします。書き終わったら、筆を洗う、ほんの数分のことが、ストレスなく書道を続けるポイントにもなります。結局のところ、ちゃんと洗ってあげないと、筆がかわいそうなのです。職人さんが一本一本丁寧に作った筆の、”本来の面目”を発揮してあげられないのです。

書は、あえて言えば、筆で文字を書く芸術。筆が要(かなめ)となり、非常に重要なものなのです。ですから、使った後の筆を洗うことは、基本中の基本。筆を洗うことで、筆は長持ちし、文字は美しくなり、心も清らかになることでしょう。筆を大切に、愛情をもって、毎回大切に洗って下さいませ。こういう愛情は、必ず自分自身に返ってくるものですから…!


*当方は、大阪で【大人のための書道教室】(阪神線福島駅徒歩1分/梅田側出口/2号線沿い向かい側)を主宰しております。書道に興味がある方へ、ぜひ、基本から丁寧に書法を学ぶ「永字八法」の体験講座にお越しください。新規受講生募集中です。(詳細はページ下をご確認ください)【オンライン通信講座も好評実施中】


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